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吾輩は猫である_十一 - 5

夏目漱石
日语读物
总共148章(已完结

吾輩は猫である 精彩片段:

十一 - 5

「うむ、そりゃそれでいいが、ここへ駄目を一つ入れなくちゃいけない」

「よろしい。駄目、駄目、駄目と。それで片づいた。――僕はその話を聞いて、実に驚いたね。そんなところで君がヴァイオリンを独習したのは見上げたものだ。 独(けいどく)にして不羣(ふぐん)なりと楚辞(そじ)にあるが寒月君は全く明治の屈原(くつげん)だよ」

「屈原はいやですよ」

「それじゃ今世紀のウェルテルさ。――なに石を上げて勘定をしろ?やに物堅(ものがた)い性質(たち)だね。勘定しなくっても僕は負けてるからたしかだ」

「しかし極(きま)りがつかないから……」

「それじゃ君やってくれたまえ。僕は勘定所じゃない。一代の才人ウェルテル君がヴァイオリンを習い出した逸話を聞かなくっちゃ、先祖へ済まないから失敬する」と席をはずして、寒月君の方へすり出して来た。独仙君は丹念に白石を取っては白の穴を埋(う)め、黒石を取っては黒の穴を埋めて、しきりに口の内で計算をしている。寒月君は話をつづける。

「土地柄がすでに土地柄だのに、私の国のものがまた非常に頑固(がんこ)なので、少しでも柔弱なものがおっては、他県の生徒に外聞がわるいと云って、むやみに制裁を厳重にしましたから、ずいぶん厄介でした」

「君の国の書生と来たら、本当に話せないね。元来何だって、紺(こん)の無地の袴(はかま)なんぞ穿(は)くんだい。第一(だいち)あれからして乙(おつ)だね。そうして塩風に吹かれつけているせいか、どうも、色が黒いね。男だからあれで済むが女があれじゃさぞかし困るだろう」と迷亭君が一人這入(はい)ると肝心(かんじん)の話はどっかへ飛んで行ってしまう。

「女もあの通り黒いのです」

「それでよく貰い手があるね」

「だって一国中(いっこくじゅう)ことごとく黒いのだから仕方がありません」

「因果(いんが)だね。ねえ苦沙弥君」

「黒い方がいいだろう。生(なま)じ白いと鏡を見るたんびに己惚(おのぼれ)が出ていけない。女と云うものは始末におえない物件だからなあ」と主人は喟然(きぜん)として大息(たいそく)を洩(も)らした。

「だって一国中ことごとく黒ければ、黒い方で己惚(うぬぼ)れはしませんか」と東風君がもっともな質問をかけた。

作品简介:

夏目漱石《我是猫》日文原版。

1867(慶応3年)、江戶牛込馬場下(現在新宿区喜久井町)に生れる。帝国大学英文科卒。松山中学、五高等で英語を教え、英国に留学した。留学中は極度の神経症に悩まされたという。帰国後、一高、東大で教鞭をとる。1905(明治38)年、「吾輩は猫である」を発表し大評判となる。翌年には「坊っちゃん」「草枕」など次々と話題作を発表。’07年、東大を辞し、新聞社に入社して創作に専念。『三四郎』『それから』『行人』『こころ』等、日本文学史に輝く数々傑作を著した。最後の大作『明暗』執筆中に胃潰瘍が悪化し永眠。享年50。

作者:夏目漱石

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